こんにちは。このたび10年以上ぶり?くらいで映画館で映画鑑賞してきたぴよこむしです。
観てきたのはこちら「劇映画 孤独のグルメ」!
五郎さんをスクリーンで観るってなんかすごくいいよなーと気分が乗ったんですね。
背広のおじさんがご飯を食べるだけの深夜番組が、何がどうしてそうなんの? なんだかすごいことになっちゃったぞ いいじゃないかいいじゃないか ひょっとするとひょっとするぞ そういうのもあるのか! って感じです。
で、パンフレットを買ってきて懐古したかったのですが品切れと言われまして…公式サイトなどを拝見しつつ思い出しながらあれこれ書いていくこととします。
注1・当記事は「劇映画 孤独のグルメ」のネタバレを含みます。
注2・筆者は2月に当映画を鑑賞し2月中から当記事の執筆を始めました。公開只中のネタバレ記事は自粛しようかと考えた筆者は、途中からいつアップしたらいいかよくわからなくなり、そろそろいいかなあという個人的所感に基づいてようやく公開することといたしました。ぐだぐだですみません。

もくじ
- 1、物語スタート&構成について
- 2、旅立ちの背景には裏テーマ曲があると思う件
- 3、探し物と恋愛論
- 4、真心で切り拓くスープの味
- 5、食事と孤独論
- 6、六郎さんの孤高のグルメ
- 7、空腹と俺/ザ・クロマニヨンズ
- 8、松重監督の想いに願いを込めて

1、物語スタート&構成について
まだやるのかなあ、と別映画の宣伝に疲れ始めた頃、テレビ東京の大きな表示が出て一気にキタコレ感。祝開局60周年。これからも頑張れテレ東。
とりあえず映画になっても五郎さんのやってることは基本的に普段と変わりません。輸入雑貨商として顧客の望む品物を届け、おなかが空いて店を探します。ただ、今回は映画ということもあってかスケール大きめ。飛行機に乗ってフランス・パリを訪れます。
このへんの最序盤でホットドッグ食べてる人のにおいが漂ってきました。私は食後に鑑賞したので大丈夫でしたが、こういう角度からの飯テロがありうるのも映画館ならでは。ただでさえ食欲をそそる作品なので多少注意が必要です。
パリのメインキャストは五郎さんの元恋人の娘役で杏さん、そのおじいちゃん役で塩見三省さん。おじいちゃんが昔飲んだ美味しいスープの材料とレシピを探して欲しいという話になります。
このあと、食材探しのパート、スープ探求のパート、クライマックスを経てエンディング、ラストシーンへと続いていくのですが。
この物語全体がひとつのフルコース料理みたいな構成になっているんですよね。パリに着くまでが食前酒、そしてストーリーの真ん中でオードブルからメインディッシュまで堪能したら、最後にデザートが待っている。
フランスから物語が始まるところに、そのコース感の提示を感じます。
そういえば映画内で五郎さんが最初にありついた店の食事はスープでした。コースの役割から考えると、序盤で体を温めメインへの期待値を上げるようなメニューですから、物語の導入部に据えるにはピッタリの一品だったかもしれません。
もちろんこのあと見舞われるスープ探しの旅への前フリだった可能性も否定できませんけどね。
五郎さん×スープといえば、レギュラー回でもカブの白湯スープとかニンニクスープとかハリラスープとか、他にもいろいろドラマに描かれてきました。
映画ではこの後も食事シーンがたびたび登場しますが、出てくるメニューから過去に出てきた別のメニューやお店が想起される側面もあると思います。お腹が空く仕様になっていることは言うまでもありません。
2、旅立ちの背景には裏テーマ曲があると思う件
食材探しのパートは普段からは考えられないような大冒険が描かれます。この部分にサブタイトルをつけるなら
摩訶不思議アドベンチャー!
〜出でよ食材、そして願いを叶えたまえ〜
こうですね。個人的には断然。
なんとなくメニュー名っぽく表記してみましたが、鳥山明先生の世界的大人気作・ドラゴンボール(集英社)からのインスパイアです。念の為。
「願い」というのは、自営業者としてスープ材料が見つかること、及び遭難者として空腹が満たされること、その両方という解釈です。
参考
ドラゴンボールを食材に、筋斗雲をSUPに、それぞれ置き換えて歌詞を辿ると五郎さんの冒険譚として成立する気がするのは私だけでしょうか。
空というより海を渡ってますし、飛んでいるのは五郎さんの発想(行動理念)の方ですけども。
あ、もちろんこの映画には鉄壁の主題歌がついていますよ。それについてはまたのちほど。
ところでSUPってSOUPにかけてるんですかね。五郎さんの性質(モノローグでダジャレっぽいことも言う)を鑑みるに、かけてそうだなあと思えてきます。
3、探し物と恋愛論
食材探しのところでは内田有紀さん演じる訳あり女性・志穂に出会い、スープ探求のところではオダギリジョーさん演じるラーメン店主が登場。この二人の存在がスープ完成の鍵を握ります。
この作品には二組のカップルが出てきます。片方はかつてフランスで暮らしていた元恋人同士、もう片方はこだわりの強い料理人とその伴侶。
それぞれ経緯は異なりますが、うまくいかずに離れてしまったという共通点があります。
そして、どちらの二人組も相手を忌み嫌ったり憎んだりなんてしてない気がするんですね。
志穂さんはチャーミングな笑顔が印象的な女性です。ですが、かつてのパートナーについて語るとき一抹の寂しさのようなものを纏っていました。現在の暮らしを楽しそうにしているのに、埋まらない何かを抱えている。そんな背景が見えるのです。
五郎さんはドラマにてたびたび、自身は結婚に向いていないようなことを心の中で口にしていました。独り者のぼやきのようでいて、実のところ何かしら忸怩たる思いがあったのかもしれません。
この人は決してお節介な世話を焼くようなタイプではないです。強いて言うなら厄介事のほうが勝手に寄ってくる感じ。そしてただ一人で食事を摂るのが好きな自営の男性、それだけです。
五郎さんはでも、終盤にちょっとした計らいでカップルの心を繋げようとします。五郎さんたちの方はもう、どうあってもやり直せない状況になってしまっていたけれど、こっちの二人はまだやり直せるところに居たから。だからささやかなきっかけを作ったんだと思います。
料理人カップルの結末について私は、復縁する兆しが生まれた、という解釈で受け止めました。それまで平行線だったものがそうじゃなくなった。これは、これからの二人の未来そのものが希望なんだよ、というフォーカスだったのではないでしょうか。最後に志穂さんが仲間たちの前でこぼした笑顔には、その瞬間より更にその先へひらけていくような輝きが宿っていたように思います。ですから元鞘に収まるのか否かという安直な結論なんて二の次という気がします。
いつか志穂さんが、どんぶりの向こう側にも何の翳りもない笑顔を見せられる日が来たらいいですね。
4、真心で切り拓くスープの味
スープ作りの舞台となるのは「さんせりて」という名のラーメン屋です。フランス語で「真心」を意味する「Sincérité」からきているものと思われます。またフランスの要素が出てきました。
思い出されるのは、五郎さんがフランスでのほろ苦い思い出を持っている人だということ。先述したある種のお節介には彼なりの真心が込められていたことでしょう。
そもそも五郎さんへの今回の依頼は元カノの子供から届いたものでした。もし当時ろくな別れ方をしていなかったら、今頃になってこういうご縁が繋がることはないはず。真心に通ずるであろう、井之頭五郎の男性としての人となりが垣間見えます。
さんせりての店主は、ラーメン店なのにチャーハンしか出さなくなってしまった、気難しくてとっつきにくそうな人です。五郎さんはそのチャーハンを食し、こたびのスープ作りをここの店主に託そうと決意します。
敢えて触れるならこの展開、取って付けたように見えなくもないのですが、これまで井之頭五郎の物語を見届けてきた者としては俄然、彼の審美眼を信じたくなります。
何せ食い道楽・五郎です。それはそれはたくさんのお店でたくさんのものを食べ、たくさんの料理人に思いを馳せてきたという経験値が、この炒飯なら、この人なら、という強い確信になったのではないでしょうか。もちろん、輸入雑貨商=自営業・五郎として培われた人や仕事を見る目もまた働いたに違いありません。一皿に宿るものがあって突き動かされたのでしょう。
店主は、はじめは邪険にしていた五郎さんに食材等を差し出されて嘆願され、最終的に折れます。苦労と共に集められた材料(食材に限りません)たちが、頑固な店主の心を動かしたんですね。
店主の炒飯が五郎さんを動かし、五郎さんの調達材料が店主を動かした。食を信じる者同士の言語外の語らい、という気がします。その心の行き来の底にはきっと真心が通っていたことでしょう。
5、食事と孤独論
個人事業者でパートナーもいない、というのが五郎さんの人生における主な孤独要素だと思うのですが、彼は普段それを食事で埋めてますよね。「孤独のグルメ」とタイトルでは言っているけれど、お店との出会い、メニューとの対話とオーダー、そして食事そのもの……心の語りの中でやりとりが成立していて、結果として少しずつ孤独を払拭しています。外側からはただの一人客にしか見えなくても、松重さんの名人芸・モノローグの鮮やかさを見れば伝わってくる。
それでも残ってしまうものがあるから井之頭五郎は「孤独寄り」なのでしょうが。
スープが完成した時、五郎さんは掟破りの非・一人飯を味わうことになりました。旅を通じて巻き込んだ仲間たち(磯村勇斗さん、村田雄浩さんたちが演じています)と一緒だったからです。それでもみんな、何も喋ったりしないんですね。おのおのがどんぶりとの対話に夢中だったからだと思います。
本当に美味しいものの前では、人は「そう」なってしまうのでしょう。そんなとき誰しもが多少孤独なのかもしれません。良くも悪くも。
更にそのシーン中は、全体的に静かで抑制が効いていました。通常だと五郎さんの心の語りやThe ScreenTones(ザ・スクリーントーンズ)のアッパーな音楽が完食までの時間を盛り上げてくれるのですが、そういう感じではなかった。おそらく、そのあたりの恒常要素を排除することで、より食事という行為そのものにフォーカスしていたんだと思います。
6、六郎さんの孤高のグルメ
これについてはどう濁して書こうか少々悩んでいたのですが、公式様側がオープンにしておられたので(テレビCMでも見かけました)もうはっきり書いてしまうことにします。
作中「孤高のグルメ」という作品が登場します。ここは思わず笑わされる人が多そうなのですが、個人的に気に入ったのは松重さんの演技。いつもの井之頭五郎の役と、ドラマに出ちゃった井之頭五郎の役をちゃんと演じ分けてるんですよ。スーツ姿じゃないのもまたレア。
遠藤憲一さん、ユ・ジェミョンさん、素敵なシーンをありがとうございました。
7、空腹と俺/ザ・クロマニヨンズ
往年のMステもびっくりのジャストフィット主題歌降臨。その名も「空腹と俺」。五郎さんのためにあるような曲ですね。
じっくり音楽鑑賞できたわけではないですが、聴こえてくる限りの言葉やサウンドからは納得しかありませんでした。過不足がないというかそれ以前にド直球。率直で実直で、五郎さんの衝動がそのまま具現化したかのようです。
印象に残っているのはドンドコした野生味あふれるドラムの音。生きていることってお腹がすくんですよね。食べたいという根源的な欲望が突き上がってくる感じがあってすごくいい。
そういえば「銀座のBarのロールキャベツ定食」の回で五郎さんがごはんのおかわりを頼んだとき、店主役の室井滋さんがこう言ってました。
「あら素敵!食べるって生きることだもんね。ウフフ」
室井さんの演技に持っていかれそうになるのですが、言ってることはかなり核心を突いてました。
なんだか、ほかにも「こういうの」がなかったか一周見直したくなってきます。
そんなことを書いていたら久しぶりにポケットビスケッツのGREEN MAN(グリーン・マン)を思い出しました。生きていることと腹がへることを並列で捉えていたからです。何気にいい曲なんですよこれ。一応補足すると、この曲はキャイ〜ンのウド鈴木さんがメインの歌詞と歌を担当しています。
8、松重監督の想いに願いを込めて
物語最後、五郎さんがスクリーンの先にいる観客に向かって話しかけてきます。ほんの一言。
私は作品における最後のデザートとして受け止めたのですが、フルコースのシメをいただいているはずがより空腹を刺激させられる仕掛けになっていて困りました。監督からすれば狙い通りなんでしょうけど。
この短いシーンには「庄助」という白地に黒文字の看板が映り込んでいます。はい、わたくし劇場でちゃんと気づきました。そのお名前から察するに「孤独のグルメ」第一回目で訪れたお店だと思うんですね。江東区門前仲町のやきとり屋さん。シリーズの原点。
映画の予告篇でも「感謝の集大成」と記していましたが、これは出演してくれたお店への感謝の気持ちだと思います。一軒目の庄助に対する想いはもちろんなのですが、これまで訪れたすべてのお店への想いを庄助に託し、詰め込んでいるのではないでしょうか。たくさんの旨みを凝縮した一杯のスープのように。
だから、ラストの井之頭五郎は演者というより監督(統括者)としての松重豊が前に出ている気がします。
シーズンをいくつも重ねるようなコンテンツになり得たのは、松重さんや演者さんたち、スタッフさんたちのおかげであり、登場するお店さんたちのおかげでもあります。感謝。「孤独のグルメ」がこれからも私たち視聴者を楽しませ、空腹を突っつき続けてくれることを願ってやみません。

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